分解不可能

デジタルテレビの新機種が各社から発表される。「将来を見据えた、今までのハイビジョンの4倍画質にあたる4Kモデルが、お安く出ている…」というニュースが報じられる。

つい数年前までは、「デジタルテレビに切り替えましょう、ハイビジョンです、3Dです…」といって売り出していたのが、その舌の根も乾かないうちに次は4Kですと煽り立てられる。

 

すでに液晶テレビが出始めてから10年近くたつので、当初のモデルを買っていた人たちはそろそろ買い変えてもいいかな、と思い始めているかもしれない。たしかに3年前、5年前のモデルに比べて、今のモデルはずいぶんと画像が美しくなっていることは明らかだ。

 

 

だがそうした視聴者側の都合と同様、テレビには送り手側の論理もある。旧来のアナログテレビ時代から、今現在のデジタルハイビジョン放送に対応するためには、それこそテレビカメラに始まり編集装置、記録装置、送り出し装置等々、すべてを旧来のアナログ用から、今のハイビジョン方式のデジタル対応型に切り替えなければならなかったわけで、放送業界はかなり疲弊しているとも言われている。

昔なら、潤沢に使えたテレビ局の番組制作予算も、昨今ではかなり値切られていることも、別の話ではないだろう。要するに、受け手の画面表示能力は高く/美しくなるけれど、送り手側の制作予算はかなり削られ、厳しい現場環境で回っている、と言われている、今のハイビジョン放送においてさえ。

 

 

それがNHKあたりが先導してか、オリンピックやワールドカップを念頭に置いて、4Kという方式にさらにジャンプアップさせたいという野望が見え隠れする。だが上記を読めば分かる通り、個々の家庭のテレビ受像機のみではなく、送り手側の放送局側のシステムも、きちんと整わなければ意味がない事。受け手だけ機能アップしたところで、そのコンテンツが配信されなければ、その機能はないに等しい。その証拠に、今手元の受像機の能力として多くに搭載されている3D放送のテレビ番組は、今どれだけ放送されているのか?利用されているのか?

 

放送以外においても、4Kに対応した記録コンテンツやパッケージ媒体の目途はどこまでたっているのだろう?VHSが終焉を迎え、DVDが出て、それがBDに切り替わりつつあるけれど、さてその次はなんなのか?

VHSが出てからDVDに切り替わるまでざっと15年。DVDからBDに切り替わるまでざっと10年-12年?と考えて、で次の方式は?やっぱりHDDですか?光ディスク形式はもうなしですか?パッケージでは売らない?ダウンロード販売が主流になりますか?

 

そもそもオンライン販売に関しては、既存のBD/DVDコンテンツパッケージメーカーがそうそう簡単に利権を手放すことは想像できない。とすると、今既にオンラインサービスを握りつつあるAppleや、レンタル事業から拡張しつつある各社などとの軋轢も想像される。このあたりが落ち着きを見せる時期に非常に左右されそうなコンテンツ業界の綱引きが、パッケージングビジネス戦略に、多分に影響するのは想像に難くない。

 

とはいえ、BDクオリティの映像がたとえば10分でダウンロードできるとしても、4Kになると単純にデータ量で4倍。単純には10分の4倍の40分をかけてダウンロードしなくてはならなくなったりするが、それは大丈夫なのか?とか、BDだと40Gの容量だった映画が4Kではその4倍の160Gの容量になる。となると、内蔵2TのHDDだとして、BDなら50本の映画がキープできたのに、4Kでは13本しかとっておけなくなるとか。ストレージはストレージで着々と容量が増えそうなところもあるが、では回線の太さは急に4倍にできるかどうか、とか。

 

 

単純な「家電のひとつ」としてのテレビとしてみているだけでは、商品が売れる/売れないだけの視点になってしまうけれど、送り手の環境、コンテンツの作成、データ送信等々を考えると、なかなか一商品だけでは勝手には転がりだしにくい環境に。

…ってところを横目に、パソコン/ケータイ陣営はチャッチャと「このくらいの画像でいんじゃね?」とオンラインで始めちゃって。別に「映像コンテンツ」を見るのには、もう「テレビ」じゃなくてもどこでも見れちゃうわけで。

「画面が小さいテレビ」の方向は、すでにケータイ/スマホ/タブレットに攻めあげられて逃げ場はない。大きく、多機能に逃げようとするも、けっこう市場は「おなかいっぱい」感も。

 

でも、きれいなテレビを開発してもらえるのはありがたいのだけれど、今まで見たいなテレビ単品商売は、難しいんじゃないのかなぁ。ま、いち早くその事業ポートフォリオが切り替えられたところが勝つのは、いつの時代も変わらないことだと思うけれど。