マルチパーパス/マルチユースの幻想

とあるところで、パソコンの使い方を教える機会があった。パソコンの使い方というよりも、Microsoft Office Word の使い方、というほうが正しい。参考資料に沿った形で、「チラシ」を1枚作ってみましょう、というわけだ。

 

今すでに会社で働いているような人なら、パソコンを使った仕事というのは、すでに当たり前になっているけれど、すでに会社をリタイアした人、ずっと主婦をしている人等々、そういう機会に恵まれていないような人にとっては、まだまだパソコン操作というのは、未知の領域、それを習うこと自体がビジネスになる可能性を秘めた分野だ。

 

私が担当した人は、すでにご自宅でパソコンを使ったことがあるような人で、文字入力やフォント切り替え、文字の大きさ調整などは全く問題がない。チョコチョコと細かな設定の仕方、便利なショートカット、動作の考え方などをお教えすることで、みるみる使えるようになる。

で、課題等が終わって、さぁ今日も終わりですとなった時に、今日は行わなかったけれど、別のチラシ見本で、写真が撮りこまれているものを見た。そして一言

 

「うちでは写真は全部印刷にまわしちゃうんですよね。」

「えっ?今どきなのでデジタルカメラですよね?」

「えぇ。でもどうやってパソコンに取り込んでいいのかわからなくて。」

「印刷した後の、写真データはどうされるのですか?」

「全部消しちゃいます。でも全部印刷するのもけっこう高くつくんですよね…」

 

ちょっとした驚きだった。ごく普通にOfficeを使っていらっしゃる方でさえ、デジタルカメラで撮影した写真を、パソコンに取り込むことをしていなかったのだ。

 

「それはもったいない!カメラを購入したときに、パソコンとつなぐケーブルが入っているはずなので、ぜひそれでつないでみてください!」

 

もう時間がなかったので、より具体的なアドバイスにまでは踏み込めなかったけれど、その方にしてみれば、パソコンとはOfficeツールを使う、文書を作ったり、メール、ネットを見るというツール、で終わっていたということだろう。画像や映像、音楽を使うツールとしての存在ではなかったのではないだろうか。

 

 

いまさらご存知の方には当たり前すぎるけれど、今やパソコンとは、何でもできるツールに等しい。文章を書くことはもちろん、音楽も聞ける、絵も描ける、写真もビデオも見られる、メールも打てる、ネットに接続してビデオ通話もできるし、世界中のビデオも見ることができる…。情報を浴びるだけでなく、情報を創造していくこともできる。音楽も作れるし、写真も加工できる。ビデオも自在に編集できる。

しかし現行パソコン利用者の多くの人にとって、一台のパソコン/一つの道具において、4つも5つもの機能をとっかえひっかえ使うことができるように使いこなすためには、かなりのハードルが存在するのも事実。で結局、メールとネットと文書作成、みたいなところで落ち着くのがほとんど。

 

一台を、さまざまな目的に使えるというのは確かに便利だ。が、そうして使う「方向」が一定しない場合は使いにくいのではないだろうか。ここで私が言いたい「方向」の違いとは、たとえばテキストベースの道具と、音楽ツールとしての道具という違いや、受動的に情報を受け取ることが主としての方向と、積極的に情報を発信する方向の違いといったこと。そうして使うことが長きにわたり培われてきた慣習であればあるほど、それに応じた適切な道具の組み合わせ“以外”の使い方では、“とても使いにくい複合道具”ができることになる。

 

それが複数の機能を搭載した便利でマルチな道具となりえるためには、そうした方向性や、操作性をじっくりと融合させなければ、そう簡単には使えるものにはなりえないだろう。それを適切に考える事、考えられること自体が、広くは「ライフスタイルを整理する/創造する」ことにつながっているんじゃないだろうか。無理に何でもくっつけたところで、使いにくい道具で作業はしない。