個別の○人と思想

攻殻機動隊」が好きな人なら知っている人が大半かもしれない。アニメ化されたシリーズの中に「個別の11人」というストーリーが展開されるものがある。そもそものリーダー格を有する誰かがチームを指揮したり、組織されているチームが存在するのではなく、ある「志(こころざし)」に同意する者が自然に集まって、自由意思で動いているだけ、なのだけれど、それがチームとして機能しているかのように見える、そんな動き。今日のネット時代でのさまざまなふるまいを見て創造したストーリーだと勘ぐるのだけれど。

 

今どきのネットは、匿名掲示板もあれば、実名Blogもどちらも存在する時代。実名の方は、それなりに「タガ」がはまっていることもあり、そんなに無茶な暴走になることは少ない、が、現実世界と同じで、本音が話されにくい仕組みでもある。ま、だから自らを演じる/装うことで「○○疲れ(○○にはツールやサービスの名前)」といった状況すら生まれるのだけれど。

他方匿名ベースの方は、匿名性によって、リミッターが解除された状態に近づくことになる。普通では言わないことも、あからさまに発言でき、少々危険の匂いがする方向へと興味がシフトしがちになる。そんな中において、実名では言えない強烈な本音が出たり、時代の真実が語られることも少なくない。そんな普通では言わないが、多くの者が抱える真の意見は賛同を得やすく、そうしてネット上でなんとなく出来上がった「意思」の流れが、思わぬ民の思想の流れを生み出すトリガーとなることもある。

 

これはある意味の理想的な形と言えなくもない。

 

全く同じではないものの、外国においては、民衆の思いを運動にまで拡大して、国がひっくり返りそうになっている事例も見受けられたりする。日本においても、それまでここ何十年とほとんどなかったような規模の静かなるデモが実施されたりする原動力になっている。

考える方向、意思、思想が合致し、それに同調できると納得できれば、バラバラであった人々であったとしても、その力の流れは束ねられ、大きな潮流となって、体制にまで影響を及ぼす規模となりえる。

 

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そもそも「○○プロジェクト」というのは、人為的にこのような状態を作り出し、手持ちの少ないメンバーの意思や目標を統一し、大きな力を発揮できるようにして、プロジェクトを成功に導こう、ということだ。

…と考えればわかる通り、関係するメンバーに共通の目標や意義を共有するということが、いかに大事なことなのかは言わずもがな。なのだけれど、だいたいにおいてこういう(目的がブレなく共有されている)状況を作れているプロジェクト自体が珍しかったりもする。多くはなんとなくぼんやりしていたり、前の製品/サービスの流れで次も作るんでしょ、みたいに流れ作業の一環になってしまっていたり。

 

もちろん、それでもうまくいくプロジェクトもあれば、違和感が先行してうまくいかなくなってしまうものもある。有名大企業のように、個々人のパフォーマンスレベルが高いメンバーが揃っているところでは、グダグダでも何とかしてしまえるという力技で解決できたりする組織もある。しかし、そんなにパフォーマンスが高いメンバーを期待できない組織の方が多くはないか?そんな時こそ、プロジェクトマネジメント力の有無が、明暗を分けることに。

 

実は優秀なメンバーが集まっている組織でも、長年にわたって組織の目的がずっとあいまいになっていたり、明確なターゲットが絞り切れずに複数存在する期間が長くなってしまっていると、そもそもがあいまいな目標であるために、それに個々人が勝手にターゲットを絞ってしまい、結局ひとつに力を束ねることができずに崩壊することもある。力を束ねられないということは、最悪の場合互いの力が逆に抗力として働き、自己崩壊へとつながる。

 

「そんなこと言わなくてもわかっているだろう」、「製品を作る、そして儲ける、それだけだ」…一部のリーダーは、ご自分では十分にそうした目的を理解している場合が多い、が、それがメンバーにおいて、同じように共有されているとは限らない。そもそもメンバーにそれらをきちんと伝える努力がなされているか、そしてメンバーに何が伝わっているのか。そもそもその目的や目標はみんなにおいて正しいものなのか。

右肩上がり経済が、資本主義の限界が見えてきている今だからこそ、そうしてみんなで走るためには、みんなで到達すべき「場所」が要る。「場所」さえ決まれば、それがみんなに浸透すれば、自然とそこには、みんなが集まろうとする。