想像に難くない、ある夜の出来事

閑静な住宅地が広がるこの地区は、細い道路が毛細血管のように張り巡らされている。さらに厄介なことに、一方通行が多い。なので、今でこそナビが発達したけれど、ベテランタクシーの運転手でさえ、いったん入ると出るのが大変。もちろん入り込むのも大変な地域。

であるがために、慣れた者しか入り込まない。住んでいる物しか近づかない。閑静であるため、要人の住まいも多いので有名な一角もある。

 

 

残暑もやっと乗り越えたある夜。そろそろ薄手のジャケットか防寒を意識したものが欲しくなる季節。月がきれいな夜もあるだろう。これが繁華街ならば、看板やネオンがきらめくかもしれないけれど、ここは住宅地のはずれ。数本の街灯と月の光だけが頼り。

一方通行に守られた居住地域の「縁側」。だが、幹線道路からたった一本入ったところでもあり車の往来は少ない。しかし20mも行けば幹線道路はすぐそこだ。外部へのアクセスは便利な場所。外縁部地域というだけで幹線道路に近く、人通りもまばらな場所。

 

そんな、早いところでは師走の声も聞こえ、寒さが身に染みる季節。2時を回るとさすがにほとんどの家が寝静まる。そんな深夜に一台のバンが静かにビルの谷間に停車。月は出ていない。

静かなその車は、しばらくは何事もなく、あたかもそこに何時間も前からいたのが当然のように静寂の時に溶け込む。

 

「カチャ」

物理的なフック上の何かがかすかに外れる音がしたかと思うと、

「ザザァー」

っと擦れた音。車体横のスライドドアの擦れる音。それ以外の音と言えば、少し離れた幹線を走る車の音だけ。すぐに周りの音に吸い込まれる。周りは明らかに静かに寝静まっている、人通りはない。

と、その30秒後、やがて唸るようなモーター音が鳴り響く。それとともに、何かが車の中から、横のスライドドアを通って、唸りが空高く登っていく。

ひとつ、ふたつ、みっつ…計4つの「なにか」が、モーター音と共に、深夜の住宅街の上空へと吸い込まれる。

 

 

…とまぁ、架空の状況を考えてみただけで身の毛がよだつわけですが。ドローンの技術が進んだり、進化したりすると、「できる者」にとっては「頭の上から」危ないモノをばらまく事がいとも簡単にできる仕組みが可能になってしまった世界。便利になった世の中の技術は、それを悪いことに使う人たちにも等しく便利になるという側面は、どうしても否めない。

 

いや、昔からあるラジコンヘリの高性能版からドローンにかわっただけなんだけれど、GPS制御、地図情報との連動、航路のプログラミング、目的追尾、ホバリング能力の向上等々、格段に「使いやすく」なった機能が満載。

となると、すでに二次元的/平面的に攻撃される時代ではなくて、三次元的に身を守らなければならない、そんな時代。官邸の上にドローンが落ちていた事件を覚えている人もいるだろう。

単に頭の上からドローンが落ちてくる、何か別のものを落とすかも…というだけの危険ではなく、「頭の良い人々」は、さらにその上の上を考えているはず。だから、先回りして守りが必要になる。

 

もちろん、こういうことにならないように、市街地上空を、勝手に飛行させてはならないといった法整備が進んでいるわけではあります。がしかし、法があったところで実行する人は実行する。暴力はダメだと言っても、やる人はやるのです。すべてを抑えることは難しくって。

厄介な時代になりました…。