床屋談義

顔なじみの美容院があり、そこで話がはずむことも多い。

もう何年も通っているので、顔なじみ。いつもの人とどうでもいい会話をしながらのひとときは、それはそれで気持ちのいいもので。
そんな中で、最近ここのオーナーを見かけないなと担当と話をしたところ、経営に専念することにしたという。
 
以前は、ここのオーナーに切ってもらったこともある。体格の良いいかにもサーファーな人。だが店舗も拡大し、店に出るよりも、店全体を運営するために学ばなければならないとして、昨今は経営に集中しているらしい。
「そんなオーナーなんですけどね、優しいんですよ。もちろん、良く怒られるんですけどね」
なんて話をしながらカット。
 
話を聞くといろいろ深い。
「昼はきちんと取ろう」
以前は、忙しい時は昼食も後回しで、店員全員で回していたらしいけれど、それじゃやっぱり回らない。昼は昼時にきちんと取ろうということで、予約もずらしてきちんと昼食時間を入れる。当たり前の事だけれど、なかなかできない事。
 
「雑用はみんなの仕事」
オーナーも修業時代、いろいろ下働き、雑用を新人が受け持っていた。が、そんな新人が雑用で忙しくしている時に、裏で先輩が一服しているのを見て、おかしいんじゃないかと。自分はこうしちゃいけないんじゃないか。それを今実践している。トイレ掃除であれ、床掃除であれ、皆で交代で行う。新人もベテランも関係なし。これも言うは簡単だがなかなか実践できない。「休みの日に怒られたんですよ。おまえ最近トイレ掃除やったか?って」
 
「掃除を怠らない」
昨今は忙しいのでオーナーも常時一店舗に駐在していない。が、ふらりとやってきたときには、黙って掃除を始めるらしい。
「そんな時に掃除をするのが、やってないところなんですよねぇ。あぁ、そこ、やろうと思ってたのに…と思っても後の祭りで、で怒られるんですよ。」
 
どれをとっても仕事の基本、チーム作りの基本だ。
チームビルディングの知識は本やセミナーでいくつも聞く。なんだそんなの簡単な事だろう…と思いがちだが、実践しようとするといかに難しいかを痛感する。
チーム運営の基本中の基本。こんなところに実例があったとは。
 
特別なことじゃない。
締め付けだけでは育たない。
この店はこれからも着実に伸びていきそうだな。
 
秋晴れの中、さっぱりとカットされた髪。そしていい話を聞いた。