テレビという病

企業が成長し、大企業になって行く。そのためには成長するに足るヒット商品、ヒットサービスや商品があったからこそジワリと、もしくは一気に伸びて来たかという事。

そうしたサービスや商品が一時の流行りを通り越し、その後の社会のシステムに組み込まれ始めると落ち着きだす。まさに「スマホ」の今がそのような状況の一つではないだろうか。

 

ただこうして一つのヒットが落ち着き始めると、(実際は、落ち着く時期が見え始める以前から)企業は次の飯の種を心配し始める。経済の常として、常に成長することが求められるから。だから、今のヒットの次のヒット、次に当たるモノを探し、それを今のうちから仕込み始める必要があるからだ。

…と、言うのは簡単。そんなに当たるサービスや商品が、誰かにわかるわけがない。当てようとしているが当たらない、と言うものがほとんど。となると、どうしても少し保守的なアプローチが出てくる。たとえば、ライバル企業が当てているものの真似事、他の分野の取り込みなどなど。

会社の中ではそうした次の企画、サービス、商品を常に考える部署があったりする。頭をひねり、データを整備し、…だから次に当たる可能性が高い!というプレゼンをして、稟議書に承認をいただいたうえでGo!

だが、これとて簡単にいくわけもない。そもそも承認する者はこう言う。

  で、本当に当たるの?

  証拠は?

  他はどうなの?どっか別のところはやってるの?

こうした言葉を落ち着いて見てみれば、「本当に当たるかどうかなど判るわけもない」し「証拠」が示せれば絶対にあたるわけもなく、「他がやっていて当たっていれば、うちがやったところで新規性はない」というのは一目瞭然。であるにもかかわらず、承認者は「失敗を恐れる」。成功の確率をあげようと、裏どりしたがる。

 

そしてこの「恐れ」は、ジワジワと会社の中に病のように広がっていく。

単なる思い付き、奇抜なものを提案したところで到底承認されるものではない。となるならば、より安パイを狙って、今年うまく行ったのを少し調整して…などということを提案して、それが承認を通ってサービス、製品となって世に出ていく。だが当然、そんなものが大ヒットになることはまずなく、場合によっては失敗することだってある。いわゆる失敗を恐れるがあまり、じり貧になって行くという病。

 

テレビ番組は、昔は深夜番組でかなりのムチャもやっていた。その中から、面白いものはだんだんと早い時間帯、ゴールデンに上って来て視聴率を稼いだりもした。(ただ、ゴールデンに出てきたことで面白くなくなった番組も、かなりたくさんあったようだけれど)。さらに一昔前に比べて、テレビは自主規制が非常に厳しいらしい。使えない映像、使えない言葉が山のように。より多くの人におもねるために保守的動きが強くならざるを得なくなる。

 

これに対して、昨今、ネット配信と言う映像配信が、技術的、インフラ的にほぼ確立し始めている。いわゆる電波利権と言われるような放送局の免許を持たずとも、資本さえあれば、素人でさえもがネットを通じて映像を配信できる。ネットの巨大企業はそのうえで、大きな金を投入して、これまでのテレビでは流せなかったようなストーリー、映像、内容をどんどんと流し始めている。これは一部の制限を除いて技術的には国境すら超えることはむつかしくない。さらに英語圏向けに作られているコンテンツは全世界が見据えられるため、全世界に向けて売り込みがかけられるとわかれば、投下資本を回収できる可能性も高く、であるがゆえにこれまでのテレビ局が使えるコンテンツ当たりの費用を超える巨大費用が投下できる。

 

相対的にあっという間に、テレビコンテンツが面白くなくなり、ネットコンテンツに支配されはじめる現実が見えてきている。特に日本は「日本語」という参入障壁もあるのだけれど、それでもネットコンテンツの流入は現実化している。逆に日本語と言う障壁が、コンテンツ市場の狭さの要因にもなっている。

逆に言えば、日本のアニメコンテンツなどを(吹き替えなども積極的に)全世界にコンテンツとして流せるチャンスでもあるはず。ここにお金を投下せずしてどうするのか??とも思うのだが。

 

自主規制で自ら首を絞め、ヒットしない事を恐れるがゆえに縮小しようとしている業界と。そもそも何でもありで、世界を見据えてガンガンコンテンツを出していこうとしている業界と。

すくなくとも日本のテレビ業界においては、いわゆる大企業病と全く同じ状況になっていることが散見される昨今。たとえばいったん、25時を過ぎた枠あたりを、無法地帯とは言わないけれど、昔のような勢いのあるコンテンツを許す時間帯にしてもいいんじゃないかなと、勝手に思ったりするのだが。

(とは言え、これは、録画機器の性能向上などなどとも相まって、なかなか業界全体でと言った形で動いているうちは無理なのかもね。…なんて言っていられるのはあと何年か…)