時間軸

VHSのビデオデッキからデジタルレコーダーへと大きく移行し始めてもう10年は越えた。すでに「テープメディア」をほとんど目にする機会がなくなって久しい。

HDDを中心とするデジタルレコーダーになることによって、メディア(HDD)が大容量になり、「とりあえず録画」しておく文化がすっかり定着した感がある(たぶん、日本が中心、日本だけのような気がするが)。

 

これによって、いわゆる旧来の視聴率というのがどんどんと意味をなさないようになりはじめ、たとえ次の日や場合によっては数週間後でも、その番組が仲間内で話題になれば、「それもしかして録画されてるかも…」と見返す文化が生まれ始めている。

違う言い方をすれば、わざわざ見返すというよりも、空き容量確保のために、「さて、自動録画はされているものの、見ないのはどれだろう…」と削除するついでに見ている…といった感もあるのではないだろうか?

 

そしてこうした視聴の仕方が普及したことによって、昔々はよく見かけた「次の日の話題」で、「そのコンテンツの内容を、仲間内で事細かにシェアをする」という文化が、明らかに変わりつつある。

 

今までなら、その「コンテンツの中身」についてすぐに議論をしていた、話題にしていたはずなのに、昨今は「その中身に直接触れられなくなってきている」事情はないだろうか?もっとわかりやすく言えば「ネタばれ」に非常に気を使わなければならない状況になってきているという事。

面白いコンテンツや、どんでん返し、トリックなどがそのカギを握るものであればあるほど、昨今ではその話題に直接触れられなくなる。であるがゆえに、話が上滑りしがちではないですか?
他方で、コンテンツプロバイダ側もそのあたりは察していて、放送から一週間ほどは、ネットでも無償で視聴が可能な環境を提供していたりもする。だから、「話題になった」ら、即「ネット経由で視聴」が可能な状況を提供することで、ユーザーを引き留める施策が打たれているという事。

 

とは言え、すぐにつながらない、話題にならないようなコンテンツで、後になって盛り上がり、これってそういえば…と、数週間分を遡ろうと思うと、やはり自宅のデジタルレコーダーに頼らざるを得ない状況。こうなると、時間軸が明らかにずれて、話題にしづらい状況も。

 

ポジティブに考えれば、そうした数週間さかのぼってでも話題になる状況は、ある意味、こんな録画装置がなければ、「記憶の上」でしか成り立たなかった状況であり、この装置があるおかげで、話題にできている、とも言える。

ただそのくらい、それぞれのコンテンツが「ユーザーの時間の奪い合い」をしているという事。昨今では、スマホのゲームや、素人作成のYoutubeともしのぎを削っているのが現状。そんな中で、録音、録画されたものを、1.2倍速、1.5倍速で見聞きしている人までいるというのだから。

 

見るタイミング、聞くタイミングのずれ。見る速度、聞く速度のずれ。でも、そこまでして「タダでさえ溢れている情報を自分に詰め込んで」どうなりたいのかな…。それを一つでも止めることで、月に1冊良い本を読んだほうが、もしかすると余程価値が高いものではないかと思うのだが…と、自分に問うてみる年末。