スキル係数

工学の分野では、「安全係数」という考え方がある。材料工学などでよく目にする数値だ。何か建築物を設計する場合、それぞれの部分にかかる「荷重」を計算し、それに耐えうる設計をするわけだけれど、さすがに「ギリギリ耐えられる数値」で実装していては危ない。なので、たとえばその2倍、3倍、まで耐えられる数値にしておこうというこの2倍、3倍という数値。これが安全係数だ。

 

仕事において、こうした「係数」を明確化したものがほかにもあるはずなのだが、うまく使われていない部分を感じるところもある。それが「人月計算」だ。

「1人月」というのは、一人の担当者が一か月かかってできる程度の工数がかかる作業としての呼称。なので「4人月」という数字があるとするなら、その作業に1人割り当てれば4ヵ月かかる、という意味と同時に、2人割り当てれば2月、4人であれば1月でできるという意味でもあるところがポイント。

 

…ではあるけれど、この考え方には根本的な欠点がある。作業を実行するのは「マシン」のように品質にばらつきがない機器であればこれでいいかもしれないが、「人月」という単位で分かるとおり、実行するのは「人」。この担当者が「優れたエンジニア」や「優れた職人」なら、もしかするとそれ以上の効率が期待できるかもしれないし、逆に「新人」や「初めての仕事」として従事する担当者であれば、当然ながら当初予定以上の工数がかかったとしても全く不思議ではない。そのスキルレベルや慣れが全く考慮されていない数字だという事。
そう、「人月」という考え方は、「人」を「マシン」と同等の扱いをしているという大きな間違いを犯している。特にソフトウェアの世界においては、優れたエンジニア一人の効率は、凡人の何十倍にも相当する場合さえもあると聞く。となれば「人月」などという数値の意味は何なのか?そもそも、「人月」を前提にしたスケジュール日程では、大きくターゲットを外す可能性は高いのも言わずもがなではないだろうか?

 

これは繰り返しとなるが、担当者のスキルレベルに大いに依存する。まずスキルレベル、スキル係数、才能係数をできる限り明確にすべきではないだろうか?一朝一夕にできるものではないのはよくわかるが、それがわかれば、今のスケジュールよりもよほど高精度に期間を読めるのではないだろうか?
現状においてのスケジュールはというと、ほぼ「予備日程」(スケジュール係数として考えれば 1.n 倍etc.)を多少とっておいて何とかする…というところから始まり、だがしかし進捗結果からそれだけでは対処できなくなり、後から追加要因を入れて大赤字…が関の山ではないだろうか?

 

2019年の日本が動き出す。株式市場は危うい兆候を示している。2020年を超えた先の日本も、この国が生き続けるために。