レゾンデートル

パソコンの売り上げがさがり、iPadを代表とするタブレット端末の伸びが著しいという。これが契機になったのかどうなのか、「iPadのようなタブレットユーザーはいらだっている」と、かのビルゲイツ氏はおっしゃったらしい。

 

私はそのいら立ちこそが間違っているんじゃないかと思っている。もしそれでいらだっている人がいたとしたら、それは「道具を間違えているんじゃないの?」と思うのだ。

 

 

同じ機能を提供すると銘打たれている道具でも、実はより狭い範囲に特化された道具というものは存在する。いまここで一つ思い浮かんだのは、刺身包丁と中華包丁。どちらも包丁ではあるけれど、片やお刺身をきれいに切ることに長けており、片や中華料理の素材を扱うことに長けている。刺身包丁で中華素材を切ったりたたいてつぶしたりすることは、やればそこそこできそうだけれど、使いづらそうだ。

 

 

くだんのタブレットも、私の周囲の数えるほどのサンプル数でしかないけれど、タブレット端末を使っている人で、「必死で長文を入力」したり「必死で画像を作成」したりしている人は見たことがない。それよりも、タブレット端末で、Webを“ゆるりと眺めて見た”り、写真を“眺めて見た”り、メールを“そこそこ読んだ”り。たまにはメールを返してみたりもするけれど、この際のメールの返事はもちろん、いわゆるビジネスメールのように込み入った長文ではなく、数行から十数行程度書ければほとんど十分。

 

そういう人たちは指で操作するタブレット端末に、精緻な操作、細かい修正を望んではいない。もしもそうした操作が必要になるなら、もっと便利な装置、やはり「パソコン」で操作する方が、機能的にも道具的にも、十分整備されていることを知っている。だけれど、それはそれで高度な知識や操作も必要。そんな操作方法は求めていない人、パソコン操作でやりたくないと思っている人が(私の周りの人においては)タブレットを触っている。

 

もっと大括りに言うなら、タブレット端末は「出力装置」もしくは「コミュニケーション装置」であることがメインであり、パソコンは、「出力/コミュニケーション機能」をも備えてはいるものの「入力装置」「編集装置」であることがメインな道具になっているのではないか?

 

 

もちろん、指で操作するタブレットに、マウスやペンタブレットの1ドット単位の精密さを求めたい人もいるのかもしれない。が、その市場の大きさはいかほどだろうか?そういうニーズのユーザーはどの程度いるのだろう?ビルゲイツの発言はその言葉の裏に、そういう高度な操作を欲しているユーザー層が多いという前提があるように見えてくる。

 

そのターゲット市場が大きかろうと小さかろうと、そこをターゲットとした製品市場“も”あるのかもしれない。が、今の技術で製品化し、計画生産数で割って値付けをした価格で、そうした機能を搭載して満足する市場は、多いとは思えない。

いや、将来に向け、そうして精密な操作性を備えたものが、今以上に安価に出回る可能性はあるだろうし、そうなったときには、市場は受け入れるかもしれない。が、それは、搭載されたすべての機能が使われるという意味での「受け入れ」というよりも、価格が下がったことによる「受け入れ」ではないかと想像する。それは、以前VHSビデオデッキがどんどんと高機能になり、かつどんどんと安価になってきて、普及率は上がったものの、搭載されている高度な機能のほとんどが、実は使われずに眠っていたのと同じ様相を呈するのに似ているように思うのだ。

 

情報を得るため、出力するために、面倒な操作はしたくない。コミュニケーションは、ある面での応答スピードが大切でもあるため、複雑な操作はしたくないし、そもそも(パソコンを含めて)複雑な操作が覚えられない人が、タブレットを使っているところが(私の周りには)ある。だから、やはりタブレットを使う大半の人たちは、それを「出力装置」もしくは「コミュニケーション装置」として使うことがほとんどではないかと見ている。

メーカーの意思としては、パソコンでもタブレットでも、じっくりと作ってほしい/編集してほしいと思っているかもしれないけれど、大半の人は“今はまだ”ほとんど作りこみはしていない。

それでも、映像作成は20年前に比べると、爆発的に増えているんだけれど。