本気
歳を取ると涙腺が緩くなって、などと言う話を聞く。最近映画を見る機会が少し増えたのだが確かに、ウルッとくることも。
でも涙腺が緩くなったんだろうか?いやいやそんなはずはなく。以前と変わらぬ冷静な自分がいるのは確かで。
で、考えてみた。なんでそうなるのか?なっている気がするのか?
いや歳を取ると、今現在の仕事の現状、社会の現状がそれなりに見えてくる。皆がどれだけ忙しいのか、皆の仕事がどれだけ大変なのかが分かってくる。それ以前は、そんな簡単な事、ちょっと手を動かせば、ちょっとひと手間かければいいじゃないか、と思っていたことが、いやいや実はそれ自体が大変な事、稀有な事というのが見えてくる。
と、そういうちょっとしたひとつのアクション、ちょっとしたひと手間がいかに価値があるのか、いかに簡単にはできないかが分かってくる。
言うは易し行うか難し。やるべき事、やった方がいい事は誰でもいえるけれど、言葉にはできるけれど、でも実行できているっていうのは、大きな壁を乗り越えていると言う価値が痛いほど感じる。
だから涙が出る。それってどれだけ凄い事なのか。
その一言、一つの言葉を出すことの意味が。
その一つの行動をとることの価値が。
歳をとると涙もろくなったりすると言うのは、そうした小さいかもしれないけれど本当に難しい事、身近にひそむ価値の重みがわかってくる、実感してくるってことじゃないのかな。
心の中のもやもやを言葉でスキッと言い表してくれた時の、映像で見せられた時の、胸のつかえが取れたような爽快感。やりたいと思っていたことだけれど、自分ができていない事を目の前で見せられるやるせなさ。自分に置き換え、自分の周りに置き換えて実感されることが自分に突き刺さる。
そんな叫びのような、悔しさのような、痛みにも似た、でも普段では絶対に巡り合う事のない感覚に出会えるから。
だって本当に目の色が変わるんだもの、本気でやっている人はね。
だから、「本気」を搾取するのは本当に恐ろしい事なんだよね。